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足音が聞こえて顔を上げると、大男が立っていた。不機嫌そうに眉間に皺を寄せて私のことを見下ろしている。おまけに、エプロンにはべったりと血液が付着していた。悲鳴をあげそうになるが、咄嗟に出たのは掠れた呼吸だった。隙間風のような音を立てて息を吸い込む私に、大男の眉間の皺が深まった気がする。
「大丈夫か？」
そういって大男が私の方に一歩踏み出したので、私も一歩後ずさる。
「は？」
「ひ、すみません……」
「面接に来たんちゃうんか」
思わず言葉に詰まる。適当にはぐらかしてこのまま帰りたかった。よし、嘘ついて帰ろう。
私が口を開こうとした瞬間、あー！ と友人の間の抜けた声が聞こえた。
「トントン、バイトビビらすなや！」
「ビビらせてへんわ」
「顔怖いねんて」
トントンさん(推定)は不服そうにため息を吐くと、私を店の奥へと手招きした。恐る恐る着いていく私の後ろをチーノが歩く。厨房らしき場所を通り過ぎて、立ち入り禁止と書かれたドアの向こうへと足を踏み入れる。
簡素な部屋だ。量産型のロッカーが三つと、小さな机、それからパイプ椅子が二つ。そのパイプ椅子に座るよう促される。私が腰を下ろしたのを確認してから、トントンさん(怖い)は目の前の椅子を引いた。
「り、履歴書……」
「ああ、要らん要らん」
そういって受け取って貰えなかった履歴書を、横からチーノが回収していった。圧迫面接としか思えない空間で、私はどうしたら穏便に不採用になるだろうかを考えていた。
「どれくらい出勤できるんや」
「あ、いや、どうでしょう……。遠いですし……」
「交通費でるよ！」
「せやな。給料とは別で交通費はこっちで出すで」
「でも大学も忙しいので……」
「そうでもないやろ」
半笑いでツッコミを入れたチーノを見上げて睨みつけるが、面白がっているのが丸わかりの表情を隠す気もなさそうだ。
「で、どれくらい入れるんやっけ」
「俺と授業まるかぶりなんで、俺と同じくらい入れると思うで」
「チーノには聞いてへん」
ばっさりと切り捨てるように言い放ったトントンさん(やはり怖い)は私の目を真っ直ぐに見据えて、もう一度どれほど出勤できるかを聞いた。
私は勇気を出して、ここで働きたくないことを言おうとした。
「えっと……」
それなのに、いざ口にしようとすると喉の奥にへばりついたように言葉が出ない。トントンさん(ずっと怖い)は急かすこともなく、私の返事を待ち続けている。こういう時こそ、チーノが茶化して場の空気を和らげて欲しいものだ。
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田中(プロフ) - 前々から気になっており、やっと今日読みました。素敵すぎました (10月19日 4時) (
レス) @page32 id: d6054e066b (このIDを非表示/違反報告)
凄惨ペロ(プロフ) - miiさん» コメントありがとうございます！拙作へのお褒めの言葉、とても嬉しいです。名残惜しいと言って頂けて、書いた甲斐があったと思えました。本当にありがとうござました。 (6月15日 20時) (レス) id: 7f89f8c794 (このIDを非表示/違反報告)
凄惨ペロ(プロフ) - 桜華さん» コメントありがとうございます。こうして無事に完結できたのは評価やお気に入りをしてくださった皆さんのおかげです。楽しんで貰えたならそれ以上に喜ばしいことはありません。本当にありがとうございました！ (6月15日 20時) (レス) id: 7f89f8c794 (このIDを非表示/違反報告)
mii(プロフ) - コメント失礼します。完結おめでとうございます！関連作ランキングから見始めたのですが、タイトルから滲み出る不穏さと、リアルでありながら綺麗に可愛らしく描かれた心情が、とても好きでした。名残惜しいですが、素敵なお話をありがとうございました。 (6月12日 3時) (レス) @page31 id: 2d3cfb07c5 (このIDを非表示/違反報告)
桜華(プロフ) - コメント失礼いたします！完結おめでとうございます。かわいいお名前に惹かれて読みに来たら、まさかのお肉屋さんでびっくりです！！しかし、多彩な文書によって最後までとても楽しく閲覧させていただきました。素敵な物語をありがとうございます！！ (6月11日 23時) (レス) @page31 id: 1bda5ccdb4 (このIDを非表示/違反報告)
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